
2023年1月に自主レーベル・エビバデレコーズを設立したthe engyは、間違いなくのびのびとしたモードに突入している。ジャンルの王道を行く楽曲への挑戦やライブを強く念頭に置いた攻撃的な作品群は、メンバー4人が年齢を重ねるにつれて獲得しつつあるどっしりと構える図太さの発露であると同時に、「どのジャンルをやってもどこかにthe engyっぽさは出る」と語ってくれたthe engyの音楽に対する自負の表れだと言えよう。
今回TOKIO TOKYO Knowledge Shareでは、3月7日(金)にCosmic Mauve、Doonaと共演する『ONE WEEK WONDER'25』の開催に先駆けて、山路洸至(Vo,Gt)に話を聞いた。時間をかけて産み落とされた一節の魅力を最大限に引き出さんとした1曲「Night Kids」から始まるthe engyの2025年。その未来予想図をここに。
「ド定番をやることに対して恐れなくなった」『Hold You Again』以降のthe engy
――2024年のthe engyは1月に『Hold You Again』、9月に『EFN』をリリースされており、多作な1年だったと思います。『Hold You Again』は新体制以降のthe engyの攻撃的な雰囲気、『EFN』はバンドがもともと所有していた渋みやゆらゆらとしたムードの漂う1枚だと感じていますが、まずは『Hold You Again』を振り返って、山路さんはどのような作品になったと受け止めていらっしゃいますか。
前提として『Hold You Again』は2023年の4月から12カ月連続でリリースした楽曲をまとめたアルバムになっているんですけど、その楽曲のレコーディングを本格的に始めた時期が新体制お披露目のワンマン(『the engy Oneman Live BONES』)以降だったんですよ。僕たちの中では、そのライブの記憶が濃くて。もちろん新体制になることへの不安もあったんですが、結果として歴代でも強くお客さんと繋がるライブができた。その感覚を大事にしながら楽曲作りに取り組んでいったから、ライブを意識した楽曲が並んでいますし、攻撃力や熱量の高い作品になっていると感じています。
――『EFN』は『Hold You Again』とは異なる作品像ですが、どういったビジョンを持って制作を進めていったのでしょう。
『Hold You Again』まで毎月リリースをしていた分、スケジュールに余裕が持てるようになったので、きちんとしたテーマを設けた上で楽曲作りに取り組んでいったアルバムが『EFN』でした。『Hold You Again』に収録されている楽曲の多くは、いわゆるミクスチャーというか、ジャンル分けしにくい、ほかのバンドがなかなかやらないであろう音楽をやることで良さを出そうとしていたんですよ。でも、表題曲の「Hold You Again」は物凄くシンプルな曲で、ほとんどワンフレーズを繰り返しているんです。というのも、先にフレーズだけをレコーディングしたのち、それぞれのパーツを組み合わせて生まれた1曲だから。その手法が上手くいったことで、自分の作る曲を自分でアレンジしてみたいと思い始めて。今まではフレーズやサウンドが決まってから楽曲に落とし込んでいたけれど、「こういう曲を作りたい」が先にある状態からそれに対してどのようなアプローチをとるかを考えるようになりましたね。
――ある種、設計図が明確になった状態で作っていったと。
そう、これまではほかと違うことをやりたいと思っていたので、ジャンルを気にせずに楽曲を作ってきたけど、「こういうジャンルに挑戦してみよう」とジャンルやマナーを意識しながら挑戦することができた。「夜明けも夜なら」であればチャキチャキとしたダンスミュージックを、「Not Today」であればアフロビーツを念頭に置いていったんですが、どのジャンルをやってもどこかにthe engyっぽさは出るだろうというか、ド定番をやることに対して恐れなくなりました。
――『Hold You Again』から『EFN』の間に制作における意識の変化があったというお話も含め、2024年のthe engyはどのようなモードにあったと捉えていらっしゃいますか。
メンバーそれぞれが歳を重ねてきたことを実感する中で、段々と余裕が生まれてきた1年だったんじゃないかな。あるジャンルのど真ん中をいく音楽を作ったとしてもthe engyになると思えたこともですし、図太くなった。それこそ、3月から『the engy LIVE TOUR 2025"C.U.T."』が始まるんですけど、当初は「C」「U」「T」それぞれに単語を当てようと思っていたんですよ。「C」は「Classic」にすると決めているものの、「T」がまだ決まっていなくて。昔だったらきちんと見通せた状態を求めていたんですが、今はその道のり自体を楽しめている気がします。

――ここまでのお話を通じて、年齢を重ねたことで「何をやってもthe engyだ」と思えるようになっているのだとお見受けしています。そうした中で、山路さんはご自身のボーカルにコンプレックスがあったという旨を過去のインタビューでおっしゃっていて。自分の歌声に対する考え方はどのように変化しています?
この前もエンジニアさんと話していたんですけど、僕はいわゆる歌うまではないというか、音程通りに歌おうとしてもズレてしまうんですよね。昔は上手く歌うことに憧れを抱いていた部分もありましたが、今はガラガラ喉が鳴ったって別に良いし、怖がらずにニュアンスを付けられるようになった。コンプレックスだった部分を肯定してくれる人が身の回りに増えて、そういう人がいるのであれば「気にしなくても別に良いか」と思うことができたんです。もちろん、コンプレックスが無くなったわけではないけれど、図太くなった分、ネガティブな感情を手放せた感じなんですよね。
時間を費やした生まれた1行を愛していく1曲「Night Kids」
――3月にミニアルバム『Night Kids』がリリースされます。今のお話を踏まえるとどっしりとした1枚になるのかなと推測していますが、リリースを控え、どういった作品になってきていると感じていますか。
おっしゃっていただいた通り、セットリストの後半にくるであろう重ための楽曲が多い1枚になってきていたので、最後の最後に1曲増やしちゃったんですよ。ギリギリで収録することを決めたから、脳内で完成させた楽曲をそのままレコーディングしていった。衝動的に作った分、軽やかに聴いてもらえる歌になりましたし、その曲が入ったことによって良いバランスで楽しんでもらえるミニアルバムになったんじゃないかな。
――意図せずボリュームな作品になっていたというのは、今のthe engyのモードを象徴していますよね。
そんな感じがします。でも、逆に歌詞の内容や描いているストーリーは、若い時の感覚に戻って綴っているというか、成熟した内容を言っているわけではなくて。例えば「Night Kids」はお世話になっているエンジニアさんが新しいスタジオを作られるとのことで、その工事を見学しに行ったところから始まった曲なんですよね。というのも、朝から働いている職人さんが夜遅くまで道具を手入れしている姿を直接見て、その突き詰める部分を見習わなきゃいけないと思ったから。その影響を受けて、スタジオに籠って時間をかけていく中で、1行目の<眠る街じゃあ、何処へ行こうが君と僕の勝手>が出てきたんです。そこから、この物語の主人公に「何で眠れないんですか?」と問いかけていった結果、とにかく夜の街に繰り出そうとする内容になっていった。だから、歌詞には少年っぽい部分がありつつも、サウンドとしてどっしり構えた1曲になりました。
――「Night Kids」では誰もいない街で遊び回る情景が書かれていますが、同時にサウンドからは明け方をイメージさせるさっぱりとした空気を感じ取っていて。the engyは夜をテーマに数々の楽曲を生み出してきましたけれど、扱っている時間帯は変化してきているのでしょうか。
スカっとする楽曲が増えてきたと思っていて、その感じが夜明けっぽさや朝日が昇ってくる光景と重なるんじゃないかなと。「Night Kids」はカニエ・ウェストの「Runaway」がリファレンスになっているんですけど、その曲はドラムのワンフレーズをサンプリングして作ったらしいんですよ。その話を聞いて「結局、フレーズってどう使うかなんだな」と思ったというか、シンプルなフレーズを鳴らすことに自信を持てるようになった。昔はフレーズを盛り込んでいたからジメっとしたり、暗い夜の雰囲気になっていたけれど、今は単純に「大きい音で鳴らそうぜ」ってモードで。その吹っ切れた感覚が、おっしゃっていただいた明け方っぽいさっぱりさに繋がっているんだと思います。
――シンプルなフレーズで良いと思えたことは、冒頭でおっしゃっていただいたド定番をやることに対する思いの変化とも連動している気がしました。
カニエ・ウェストの曲作りとかを勉強していて思うんですけど、盛り上がったヤツが勝ちというか、良い意味で「バカですねぇ」と思える曲ってあるじゃないですか。結局そういう音楽が好きだなと思った。もちろん凝ったフレーズにも良さがあるけれど、誰が聴いても本能的に上がってしまう曲はやっぱり強いし。自分の中にある単純さを素直に入れられるようになったかなって。
――勢いや純粋な熱量に改めてフォーカスできるようになった背景には、『Hold You Again』以降特に意識してきたとお話いただいたライブの存在もあるんですかね。
お世話になってきた京都のGROWLYが閉店するにあたって、自分たちやほかのバンドのライブを体験したことで、ライブハウスで純粋に「イェーイ!」と叫んでいる音楽も好きだと振り返れたんですよ。いわゆるロックバンドらしさを自分たちの音楽にも活かしたいと思うようになった。それがシンプルな構成に繋がっていますし、最近は曲を作る時に1個のものを好きになりたいと強く思っていて。今までは「この歌詞にあのメロディーを組み合わせて……」みたいな考え方をしていたんですが、「この曲はこのフレーズが主役の歌」「この曲はこのメロディーがとにかく好き」で良いんじゃないかなと。「Night Kids」であれば<<眠る街じゃあ、何処へ行こうが君と僕の勝手>のフレーズがそれに該当しますけど、好きな1フレーズをさらに好きになって、上手く伝えていくために曲が完成していく。昔からやってみたいと思っていたやり方がようやくできている気がします。
Cosmic Mauve、Doonaと共演。3月7日(金)開催『ONE WEEK WONDER'25』
――3月7日(金)に『ONE WEEK WONDER'25』が開催されます。the engyの皆さんには、2022年9月に『【溶】-YOU-』、2024年7月に『BONE WEEK WONDER’24』(『BONE WEEK WONDER’24』ライブレポートはこちら)、2025年1月にも『【溶】-YOU-』へご出演いただいていますが、TOKIO TOKYOにはどのようなイメージをお持ちですか。
初めて行った時は、「なんてオシャレな街にあるオシャレなライブハウスなんだ」と思っていて。そこから何度も出演させていただくうちに、距離の近い、体温を感じられる会場だと思うようになりました。東京っぽいスタイリッシュさがあるのに、いわゆるライブハウスらしい熱量や泥臭さも持っている。そのハイブリッド感が絶妙ですし、僕らも含め、東京へ遠征してくるバンドにとっては有難いライブハウスだなと。

――3月7日(金)開催の『ONE WEEK WONDER'25』はDoona、Cosmic Mauveとの共演になります。2組に対する印象を教えてください。
最近はCosmic MauveやDoonaをはじめ、後輩というか、若い世代の方とご一緒することも増えてきて、「おじさんとも一緒に遊んでね」って気持ちになることも多いんですよ。音楽的な側面では先輩後輩を意識していないですけど、人見知りせずにどっしり構えて仲良くなれたら良いなと思っています。
――改めて、3月7日(金)『ONE WEEK WONDER'25』に向けた意気込みをお願いします。
TOKIO TOKYOはステージからお客さんの顔が良く見えますし、当日はそれぞれのファンの方がいらっしゃると思うので、皆さんと目を合わせて一緒にお祝いしたいです!
取材・文=横堀つばさ
3月7日(金)開催『ONE WEEK WONDER'25』

出演:the engy / Cosmic Mauve / Doona
OPEN 18:30 / START 19:00
ADV / DOOR ¥3,000 / ¥3,500 + 1D
チケットはこちら
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