
”エクスペリメンタル・クラシック”を掲げる4人組・Khamai Leon。彼らが5月にリリースした2ndアルバム『IHATOV』は、ジャズやクラシック畑の4人が「バンドは如何にあるべきか」と対峙しながら、産み落とした1枚である。そんな同作の鍵となった楽曲「森」には、無数の生活を抱える都市や循環の舞台である自然、そして生死への価値観が滲む。
9月24日(火)に渋谷・TOKIO TOKYOにてyhojin、jean、SOMAOTAと共演する『FREE!!! vol,26』の開催に先立ち、今回TOKIO TOKYO Knowledge Shareでは尾崎勇太(Vo,Fl)、beja(Key,Gt)、赤瀬楓雅(Dr)の3人に話を訊いた。
哲学的でありながらも、素朴にキャッチ―に。生活に根付く音楽を生み出そうと奔走し続ける4人の旅路は、数百年後のクラシックへと繋がっている。
――お送りいただいた「森」は、キャッチーなオープニングパートから尾崎さんのラップ、1度音を止めてから再スタートするポイントまで、目まぐるしく展開が変化しながらも、まとまって聴こえてくる1曲だと感じています。皆さんは「森」をどのように捉えていますか。
尾崎勇太(Vo,Fl):「森」はKhamai Leonとして久しぶりにリリースした曲で。“エクスペリメンタル・クラシック”を掲げて2022年から活動をする中で、自分たちのアイデンティティに対して疑いや悩みが生まれたんですね。そうなった時、「次にどんな曲を出すのか」「Khamai Leonはどんな曲を作っていくのか」を考えた結果として生まれた楽曲でした。なので、制作に難儀していた時期から脱却できた曲みたいな。
――Khamai Leonの行く先を決定づけるような1曲だったと。
**尾崎:**そうですね。bejaが作曲した楽曲はスコアの形で上がってくるので、それぞれの役割が決まっている。複雑で拡散した音楽性の中から、1つタイトにキャッチーなものを作ることができたから、リスナーの方にもアプローチができたと思っています。
**beja(Key,Gt):**スコアで書き切った後、皆でキャッチ―なものへ近づけていく挑戦に時間を費やした記憶がありますね。スタートの段階で「この曲は格好良い」って感触は全員の中にあったんですけど、誰もが食べやすいようなアプローチにしていく必要があった。普段だったら僕が全て書いていたメロディーも、「森」には尾崎が考えたパートが入っていて。自分が書くと音楽として固まりすぎてしまうので、尾崎が歌いやすいメロディを書く。これまでしてこなかった共同作業を沢山行ったから完成した曲だと思いますし、『IHATOV』(「森」を収録した2ndアルバム)まで漕ぎつけたキッカケです。
**赤瀬楓雅(Dr):**時間をかけて制作する中で、僕自身も曲に対するアプローチを深く考えて。これまではアコースティックなアプローチが得意だったんですよ。でも、「森」を機に電信音と生ドラムを共存させる形を作ることができた。それが『IHATOV』にも繋がっていると思います。

――以前、Khamai Leonがどこに属して良いのか分からなかったとお話されていた(※1)と思うんです。その疎外感が「森」をリリースするまでに試行錯誤が必要だった一因なのかなと感じたのですが。
**尾崎:**まさにそうですね。赤瀬はジャズ、他の3人はクラシック出身なので、クラシックのスタイルだったらいくらでもやれるんですけど、ライブハウスの空気感って全然違うじゃないですか。率直に言うと、その違いに食らっちゃって。でもバンドに憧れがあったから、「俺らはここでやれるようにならないと」「シーンに馴染んでいかないと」という考えになって、苦しんだんですよね。でも「森」が完成したことで、自分たちの出自ややってきたものを否定して、バンドシーンに入っていくんじゃないなと気づけたんです。クラシックの出自を持っていることが魅力だと自信をもちながら、ライブハウスで戦っていきたいなと思っています。

――「森」の中間部、音が止んで再び始まるパートに生命の輪廻や芽吹きのようなものを感じて。歌詞にも<「Left old dream, this is the journey to search for “memento mori”.」>という一節が登場しますが、死生観をこの曲に託したのはなぜなのでしょう。
**尾崎:**最初にリリースした「ubiquitous」にも<俺は 生まれて 死ぬだけ>というフックがありますし、僕の思想の根底には死に対する価値観があるのかなと。僕らはバンドマンとしてだけでなく色々な形で音楽と関わりながら生活しているから、生活の全てが音楽なんですよ。生きている時間で考えている全てのことが音楽なので、音楽によって自分のエネルギーが左右されていることを感じるんです。そういった生活の中で、自分の価値に対して常に疑いを持って生きている。結局、人間は死んだら何もなくなるって考えが全ての根底にあって。だからこそ、人の一生って愚かでもあるし、儚く美しい営みでもあると思うんです。そういった価値観に引っ張られて歌詞が出てきています。
――「森」に関しては、そういった死生観が“メメント・モリ”として表れているんですね。
**尾崎:**そう、僕は対比が好きなので森とコンクリートを対比させていて。森は命が循環する場所だと思うんですけど、その循環の行き着く先って死じゃないですか。そういったことはどうしても考えてしまう部分ですし、上手く歌詞としてハマってくれたかな。
――森とコンクリート、森と東京という都市との対比や、「森」が理想郷を指示する『IHATOV』に収録されていることも含め、自然と都市に対する対比的な価値観も通底している部分だと感じています。
**尾崎:**僕喋っても良いですか?
**beja:**全員気持ちは一つなんで(笑)。
**尾崎:**コンクリートジャングルって言うじゃないですか。あれも1つの森で、確かにエコシステムを表していると思うんですけど、やっぱり圧倒的に木々とコンクリートは別の存在で。真逆の存在なのに同じ文脈としても捉えることができる。その写し鏡でもあり、正反対でもあるという構築感が好きなんですよね。それは、先ほども話したバンドシーンや音楽産業的な部分とも繋がっていると考えているんです。
――というと?
**尾崎:**僕たちの始まりは「1900年代の曲は新しい」みたいな価値観があるクラシックで。一方、ライブハウスのシーンはそれとは全く違う最新の世界なんですよ。なおかつ、上京してきた我々にとって、東京という場所も挑戦の場所であり、自分の根っこにある場所から飛び出してチャレンジしているものなんですね。だからこそ「頑張るしかない」と思って活動をしている。そういう正反対でありながらもどこか重なるみたいな部分を、森とコンクリートというワードで表現したんです。
――bejaさんと赤瀬さんも頷かれていますけど(笑)。お二人の考えも尾崎さんと合致しているのでしょうか。
**beja:**ずっと言い続けていることではあるんですけど、『hymn』の時から尾崎が書いてきたリリックに対して疑問を抱いたことが一度もないんです。それはコロナ渦に4人で色々な話をしたからだと思っていて。価値観や生きることに対する考え方が強固にリンクしている中で生まれてきた作品たちだから、「自分もこれを言いたくてこの曲を書いたんだよ」って感覚になる。それはずっと変わっていない信頼ですね。
**赤瀬:**信頼っていうのが本当にそうで。尾崎の思っていることと一言一句同じだとは考えていないですけど、生き様が出ている感じが好きなんですよ。だから、疑ったことはないです。
――Khamai Leonの楽曲には、話し合いや活動を通じてこれまで醸成してきた価値観が落とし込まれていると思うんです。哲学的で難しい内容を普遍的かつ明瞭な形で表現する上で、どのようなバランスを意識しているのでしょう。
**尾崎:**沢山の好きなバンドがいる中で、僕はサカナクションがすごく好きで。山口さんの歌詞が特に好きなんですよ。哲学的な内容がポップに落とし込まれていて、伝わる形にするための努力をされたことが伝わってくる。だから、そういった表現をすることが一つの目標です。あとは、サウンド的なスタイルの確立だけではなく、人の心に入る歌詞に至っているバンドほどメインストリームで活躍していると思っていて。だから、アイデンティティとなるサウンドに込めている思いを、言葉で100パーセント伝える力を泥臭く追及したい。難しい音楽に乗せて難しい言葉を並べたら良く聴こえると思うし、確かに評価されるかもしれない。でもそれに持続性はなくて、人々の生活に結びつく音楽じゃないんです。1人1人の生活の記憶に入り込むような曲を作っていくためには、一生懸命やっていくことが欠かせないですし、その努力はこれまで活躍してきた作曲家たちがやってきたことと同じことだと思うから、いずれクラシックになっていくんじゃないかなって。

――9月24日(火)に渋谷・TOKIO TOKYOにて『FREE!!! vol,26』が開催されます。TOKIO TOKYOやイベントに対するイメージを聞かせてください。
**尾崎:**TOKIO TOKYOは僕らと同時期に動き始めたハコだと思いますし、最初の曲をレコーディングしながら「エントリーしたら出られるかな」って話をしていたことを懐かしく覚えていて。TOKIOさんのインタビューも読ませてもらったんですけど、「ちょっと考えればその通りやん」みたいなことをガンガンやっていくイノベイティブな会場だと思うんです。『FREE!!!』もそういった動きの中にあるイベントで、僕たちと同じように自分たちを探す旅を歩んでいるバンドをピックアップしている。耳が早いと感じますし、最先端にいるなと。

――ありがとうございます! 9月24日(火)はyhojin、jean、SOMAOTAと共演になります。3組に対する印象を教えてください。
**尾崎:**今回はHIP HOPやエレクトロの文脈のアーティストが多い中で、僕たちはバンドサウンドを思いきりぶつけようと思っています。その時に4者それぞれがどういった反応をしていくのかが楽しみですね。あと、SOMAOTAが活動しているBlack petrolは、僕らが最初にライバル視していたバンドで。SOMAOTAの声はキャッチ―で同じ土俵に立てないなとも思うんですけど、どこか近い死生観や哲学がある気もするんですよ。だから、パフォーマンスを観るのが楽しみですし、4人で戦えたらなって。
――改めて、9月24日(火)『FREE!!! vol,26』に向けた意気込みをお願いします。
赤瀬:『FREE!!!』は実際に観に行ったことがあるイベントで、ようやくKhamai Leonで出演できるんだなと。この記念すべき機会を目一杯楽しみたいですし、たくさんのお客さんに来てもらえたら嬉しいです。
**beja:**いつか『FREE!!!』に出られたらと思ったことを明確に覚えていて。やっと自分たちのターンが来たというか。頂いた機会で、Khamai Leonのアプローチやサウンドを耳の早いイベントに集まってきた方にきちんと刺せるように仕上げていきます。かなり気合いが入っておりますので、よろしくお願いします!
**尾崎:**2人が言ってくれた通りなんですけど、4者4様のイベントだと思うので、お客さんの化学反応も見えるんじゃないかな。トキトキに出演するのも久しぶりだから、前回とは違うKhamai Leonを見せたい。トキトキのブッキングイベントに出演するのは初めてなので楽しみですし、新曲も沢山持っていくんで。Khamai Leonとトキトキの歴史の第一歩としてやっていければと思っています。
取材・文=横堀つばさ
(※1)https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/37675
9月24日(火)開催『FREE!!! vol,26』

出演:jean / Khamai Leon / SOMAOTA / yhojin
OPEN 18:00 / START 18:30
TICKET:FREE
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