
2024年5月8日(水)、東京・渋谷TOKIO TOKYOにて『【溶】-YOU-』が開催された。
『【溶】-YOU-』は、同ライブハウスが主催する対バンイベントとして2022年9月にスタート。今後はclimbgrowや板歯目、Acidclankらが出演することが決定しており、アーティストとお客さんが混ざり合うような1日を生み出し続けている。
企画担当・ニイムラ氏が「新学期や新生活に慣れて疲れが出始めた季節に来て欲しいイベント」と称した今回は、ケプラとアルステイクの2組が出演。大雨の東京で繰り広げられた、エネルギーに満ちたステージの様子をお届けする。
ケプラ「幸せを体現する心地よさ」
定刻を迎え、舞台袖から円陣の声が聞こえてくる。SEに合わせて4人が登場すると、柳澤律希(Vo.Gt)の伸びやかな弾き語りから「剣」で幕が切り落とされた。けんた(Gt)が早速クラップを要求すると、フロアからは温かな手拍子が巻き起こる。グッズのタオルを肩にかけTシャツに身を包み、腕いっぱいにラバーバンドを付けたファンの姿も多く見られ、心待ちにしていた今日を全身で楽しもうとするワクワク感が伝播していく。
かず(Ba)とハヤト(Dr)が作り出す軽快なリズムに体をゆらゆらと揺らしたくなる「記念日」、柳澤の「まだまだこれから!」という一声で突入した「16」を終え、会場は口角が上がってしまうような柔らかいムードに。<あなたの声も伸びた睫毛も 食べちゃいたいくらい好きなんです>と一途な恋心をドストレートに歌う「記念日」や、幼いころの夢と今の暮らしに思いを馳せる「16」は瑞々しく、青春時代を思わずにはいられない。制服姿に身を包んだオーディエンスも多く、ケプラの音楽が彼らの学校生活の中に組み込まれていることを実感する。
アルステイクとのツーマンがおよそ1年ぶりであることを語ると、耳目を集めるキッカケとなった「これからのこと」でライブを折り返す。「記念日」にも通ずる優しいラブソングを、愛情を思わせるピンクのライトと幸福を象徴するような黄色のライトが彩っていく。<2人だけの時間がいつまでも 続くようにさ>のラインに合わせて翳されたピースサインも目に焼き付いた。
「湿気がすごいね。もう梅雨?」と1度目のMCと同じやり取りをしたかと思えば、柳澤は「髪型が定まらないんだけど、同じ人いる?」と友人と喋るように話しはじめる。しかし、観客からは手が上がらず、ハヤトがビートを開始。強制終了に笑いが起きた一幕を経て、「ワン、ツー」のカウントから披露されたのは「ルーシー」だ。
柳澤のアジテートでファンが左右に手を振り一体感を生み出すと、「春が過ぎたら」へとなだれ込む。「歌える人?」の問いかけにMCでは上がらなかった手が無数に掲げられ、メンバーとフロアが一丸となって巨大なチャントが発生する。
ライブ中盤で披露された「噂のツインズ」や「そばにいてね」でも、<La.La.La…>や<ルルル…>といったシンプルなフレーズが合唱を巻き起こしていたことが印象的だったが、アンセムというべき「春が過ぎたら」の<ラララ歌うよ悲しまないで 少ししたらまた迎えに行くからね>という一節で、4人はずっと原初的な歌を歌ってきたのかもしれないと気づく。ささやかな幸福があった時、歌ってしまうような鼻歌。そんな幸せを体現した歌を拡張したような心地よさが、ケプラの音楽には流れているように思った。
最後を飾ったのは4月にリリースされたアルバム『20』のオープニングナンバーでもある「ぼくのてんし」。曲の終盤、メンバーが顔を合わせながら熱唱する姿は、「バンドってこれだよな」と思わせる、4人それぞれの声色が1つになっていく高揚感が充満していた。
アルステイク「こびりついて離れないライブ」
後攻はアルステイク。ひだかよしあき(Vo.Gt)が「岡山からアルステイクです」とお馴染みの挨拶を述べると、あむ(Dr.Cho)のカウントと共にのん(Ba.Cho)のメロディアスなベースが鳴り響く「ワガママ」でライブがスタートした。今にも泣き出しそうな表情で歌うひだかと切なさを掻き立てるのんのコーラスに、早くもタオルで顔を抑えるファンの姿が目に留まる。
「ワガママ」と対になっているMVも印象的な「他人事」へと続けて畳みかけようとするが、前方が危険な状態となったため音をストップ。「心は熱々でいこう」とアドリブで対応するひだかの様子からは、数々のライブを経て積み重ねてきたブレないバンドの力強さが伺えた。
「どうしようもない2人の歌」と呟いて披露されたのは「終わりの続き」。背中合わせで演奏するひだかとのんの姿は、時にライバルのように、時に戦友のように見える。しかし、<新しい恋をして 大人になっていくかな 覚えたての化粧で いつまでもそのままで>と失われた日々と未練を吐露する同曲の演奏中だけは、もう重なり合うことのない道を別々に歩んでいく2人とオーバーラップした。
「溶けて混ざりあっているけど、混ざりきっていない感じが良かった」とフライヤーデザインに触れつつ、「今日はべろべろに酔っぱらって帰ろうと思うけど、俺らの音楽に酔っぱらって。そして、自分に酔っぱらって!」と煽ると、「未完成のまま」でアクセルを全開に。
<猫派>のシンガロングが生まれた「わんちゃん」、あむのパワフルなビートが波立たせたフロアにひだかが「最高!」と満足気な笑みを見せた「走れ」、血走る真っ赤なライトが心拍数を加速させた「踊れ」とアッパーチューンを連打し、会場を熱気に包んでいく。
「東京に来ると絶対に思い出す映画があるみたいに、TOKIO TOKYOに来ると思い出すバンドになりに来ました!これからも沢山のイベントをやっていくと思う。その中で一生残り続けるライブ!」とシャウトして「チェリーメリー」をドロップ。
縦横無尽にステージを駆け、オーディションとゼロ距離でアグレッシブなプレイを見せるのんと「オイ!オイ!」と叫び火をくべるあむ、「こべりつくライブにする」「ライブハウスってこういう場所」と大胆で滾ってしまう言葉を紡ぎ演奏するひだかの3人の風姿は、ダイブやモッシュの有無など関係ないと告げている。しかし、それもそのはず。彼らはコロナによる制限下のライブハウスでも戦い続けて来たバンドなのだから。全力の拳で応じるファンに「めっちゃいい顔してる」とひだかが叫んでいたことは、まさしく「こべりつくライブ」になったことの裏付けだった。
「ふたりの季節」「心」を経て胸が温かくなる空気の中、エンドマークを打ったのは「今日は」。「今日の帰り道、星は見えないかもしれない。でも、俺らの音楽を聴いたお前らは星よりも輝いている」という一声と共に披露された同曲では、青と白の照明が夜空のように広がった。<星を隠した曇り空 今日は自分で居れるかな>の2行は、曇り空≒鬱屈なものに隠されてしまった星≒自分を表しているようにも思える。であるならば、星夜のごとき明かりとロック“スター”が存在しているライブハウスは、自分が自分で居れる場所なのだろう。
降り注ぐ喝采に誘われて再びステージに登場した3人は「噓つきは勝手」で1日を締めくくる。ひだかは終盤のMCで「春が過ぎたらというより、春、夏、秋、冬が過ぎてもずっとこんな夜を作っていたい。生き抜いたその先で会いましょう」と語っていた。GWの終わり、ケプラとアルステイクが繰り広げたライブは、生き抜く活力をくれるものだった。