2024年4月3日(水)、東京・渋谷TOKIO TOKYOにて『FREE!!! vol,19』が開催された。

『FREE!!!』(https://x.com/FREE_TOKIOTOKYO?s=20)は、同ライブハウスが主催する新人発掘チケットフリーイベントとして2022年4月にローンチ。これまでに浦小雪や東京少年俱楽部、CheCheら注目のニューカマーを招き続け、新たなアーティストとの出会いの場となってきた。

企画担当・ニイムラ氏が「内臓がとんでもなく滾り喚く日になる」と称した今回は、NOUGATとくゆる、Zanjitsu、Hammer Head Sharkの4組が出演。幸せな耳鳴りに包まれることとなったステージの模様を紹介する。

NOUGAT「揺らぎから生まれる哀愁」

この日のトップバッターを務めたのは、NOUGAT。ボイスエフェクトを活用したSuguru(Gt,Vo)の波打つ声がメランコリックな印象を与える「あと少しだけ」で幕を上げると、「よろしく」と告げ「NEVERLAND」を続ける。Suguruのアルペジオがどこか不安定にも聴こえる一方で、確かな安定感があるのはツインベースの編成に依拠する部分もあるだろう。ゴリっとしたサウンドと丸みを帯びた2本のベースは安心感を生み出し、Ryota Yamaura(Dr)のシンプルなビートがずっしりとしたアンサンブルをまとめていく。

攻撃的なリフに会場の温度が上がったのが分かった「行かないで」でギアチェンジ。Kanako(Ba)とHiguchi(Ba)が向かい合い演奏する姿は、阿吽の呼吸という言葉が良く似合う。燃えるような赤いライトが火をくべると、ファンは大きく飛び跳ねたり拳を上げたりと全力で応答。“戻らないで欲しい”という思いと“行かないで欲しい”という思いのアンビバレンスが、“愛は途絶える”にも聴こえる<そうして 哀は途絶える>という一節からは痛いほど伝わってきた。

MCではSuguruの「お酒飲んでくださいね」という声に促されて、バーカウンターに行列ができる場面も。海外の方も多く見られたが、アルコールを片手に浸りたくなってしまうのは万国共通なのだなと普遍的な感情にほっとする。観光やショッピングとともに気軽に足を運ぶことができるのも無料イベントならではの魅力であり、今までにどれだけの予期せぬ出会いがあったのか、そしてこれからどんなドラマが起きるのかに胸が躍った。

最後の曲にセレクトされたのは、Suguruが呟くように語りかける「UNINVOKED」。じっとりと終わりを迎える感覚は音が身体に染み入っていくようであり、恍惚とした表情を浮かべるオーディエンスも多かった。NOUGATが届けてくれた30分は、今日が良い日となることを確信させるひりつくようなオープニングだった。

くゆる「静寂と轟音のコントラストが生んだ幸福な耳鳴り」

2番手は2022年結成の5人組・くゆる。3本のギターから放たれるノイジーなサウンドが特徴的な彼らだが、サウンドチェックから「音あげてもらえますか」と爆音を鳴らす準備は満タン。「くゆる、始めます」の合図で「denenn」を投下し、飛田煕(Gt)がステージから身を乗り出して扇動すると「momo」に接続する。

下戸あやな(Gt,Vo)のクリーンなアルペジオから、上田隆太(Gt)が重なり、飛田が鯨の鳴き声のような単音を奏でる。各パートが段々と重なり合い一つの曲へと向かっていく時間も、重なり合ったメロディーが「せーの」の合図を受けたかがごとく一気に鳴らされる瞬間も、水の中にいるような包まれている感覚も心地が良い。没入感を生む5人の音楽に、じっと目を瞑って聴き入っている人も多かった。

作曲家・芥川也寸志は「音楽は静寂の美に対立し、それへの対決から生まれるのであって、音楽の創造とは、静寂の美に対して、音を素材とする新たな美を目指すことのなかにある」(※1)と記しているが、くゆるの音楽はまさしく静寂への挑戦だと思える。10分超のナンバー「BESIDE」は、このことを象徴していたように思う。曲後半で1度無音の時間が流れるとアウトロへ。加速していくビートに集音マイクは震え、動と静のコントラストが際立っていた。

エンディングを彩ったのは、山口航(Dr.)のサインからプレイされた「蒼い空」。上田と飛田、河瀬塁(Ba)が激しく頭を振るのに呼応して、「まだボリュームが上がるのか」と思わせる轟音が鳴る。全身を震わせるシューゲイズの存在感は雷や地鳴りを思い浮かべてしまうほどに巨大である。にもかかわらず、すぐさま消えてしまうような儚さと脆さを備えているのは、下戸の声色はもちろんのこと、全身全霊をかける姿が「これで終わりかもしれない」と予期させる点も大きいのだろう。くゆるが残した幸福な耳鳴りがまだ止まない。

(※1)芥川也寸志,『音楽の基礎』,岩波書店,1971,p8

Zanjitsu「インターネットじゃ見られない景色を見せます」

たもつ(Gt,Vo)が「よし!」と気合を入れて始まったのはZanjitsu。ショートチューンの新曲「くたびれ」から、「1・2・3・4」のカウントと共に「私の青」へと流れ込む。青に染まったフロアには拳とビールが掲げられ、前2バンドが創り上げたひりついた空気感とは異なる爆発力を見せつけていく。ディユニ・アー(Ba)のピックスクラッチが浮遊感を演出する「水際」では、川前ころ(Dr)の背後に水面を想起させる照明が浮かび上がり、揺らぎを生み出す。

「いつも払ってもらっているチケット代より良い演奏するんで」とチケットフリーの『FREE!!!』に対する思いを話すと、「春になりましたが、夏が好きですね」と呟き「三夏、束にして風のように」へ。たもつが歌い出した瞬間にオーディエンスからは「うわぁ」と歓声が上がっていたが、<わたし あなたが好き>というストレートな書き出しにはドキリとさせられてしまう。“あなた”の存在を過ぎ去っていった夏の季節にリンクさせるこの曲を一例に、Zanjitsuの歌は青や夏と結びついている。それはラムネのような爽やかさと消えゆく花火のような儚さを兼ね備えていて、8月の終わりにも通ずるエモーショナルな感傷を呼び起こすのであろう。

「インターネットじゃ見れない景色を見せます」。そんな決意と共にドロップされたラストナンバーは「余年が過ぎて」。立ち上がって演奏する川前のビートが心拍数を上げ、ギターを掻き鳴らすたもつの姿は<私小説的な夏休みの日々に トドメを刺したジャズマスターの音>というラインと重なった。

たもつはライブを通して幾度も「Zanjitsuと申します。よろしくお願いします」と口にしていたが、それは彼らを初めて見る観客に対する自己紹介だったのだと思う。しかしライブを終えた後のざわめきは、彼らが名前以上のものを刻んだことを確かに伝えていた。

Hammer Head Shark「自分のことは大嫌いだけど、自分の曲とバンドは大好きだから続けます」

トリを飾ったHammer Head Sharkは、サウンドチェックの段階から本番かと見間違うほどの圧を放っていた。会場BGMが止み無音に包まれたステージに4人が登場すると、客席も歓迎ムード。3バンドが繋いできたバトンをしっかりと受け継いでいることが、この時点で雰囲気から伝わってくる。

オープナーとしてセレクトされたのは、Hammer Head Sharkが毎年3月に主催しているイベントのタイトルにも冠されている「魚座の痣」。福間晴彦(Dr)のカウントから曲がスタートすると、ながいひゆ(Vo,Gt)のレトロな声が伸びやかに響き渡り、アグレッシブに演奏する後藤旭(Ba,Cho)にも熱視線が送られる。

簡単な挨拶を終えると、藤本栄太(Gt)のタッピングが冴え渡った「echo」からグランジ直系のリフが印象的な「アトゥダラル僻地」へとシームレスに接続。ミドルテンポで深くリバーブがかかった楽曲が生み出す、包まれるような感覚とは異なる乾いた音像でボルテージを上げていく。

「今日は少し寂しかったからみんなに会えてうれしいです。そこにいてくれてありがとう」と感謝を告げると、「りんごの駅」でフィナーレへと突入。ゆったりとした弾き語りからフルテンのギターとビートが鳴らされる中、後藤がピースサインでアジテートするシーンも。移り変わっていく光景と記憶を刻みつけるようにながいが〈I hate you〉とシャウトすると、オーディエンスも応えるように肩を組んでシンガロング。深層に眠っている負の感情が幻想的なサウンドのフィルターを通じて浄化され、フロアと共鳴していく景色があった。

退場前から早くも投げかけられていた「もう一回」「帰らないで」という声に応えて、再び姿を現した4人。「自分のことは大嫌いだけど、自分の曲とバンドは大好きだから続けます」と決意を表明し、<鮮やかな白が街を平らげて 春の匂いで充満していく>というフレーズが4月の始まりにぴったりな「たからもの」でエンドマークを打つ。曲の途中でながいは「会いたかったよ」と叫び、にこやかな表情を浮かべていた。顔を綻ばす彼女の姿は、今夜が素晴らしい1日であったことの何よりの証明だったに違いない。

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