
2024年9月にドロップされた「夏よ」を号砲に、えんぷていは次なるステージへ進んだと言える。敬愛するアーティストとの対バン企画『SESSIONS』の開催や、奥中康一郎(Vo,Gt)が「5人になったえんぷていの新しい武器を見せたかった」と語った「ステラ」を筆頭に、次々とガソリンを投下していった最中、2月14日(金)にEP『愛はいつもひとりきり』がリリースされた。奥中が抱き続けてきた愛という存在への解釈を凝縮した本作は、リスナーが各々の形でそっと拠り所にできる全5曲を収めている。
今回TOKIO TOKYO Knowledge Shareでは、3月20日(木)にQoodow、乙女絵画と共演する『ONE WEEK WONDER'25』の開催に先駆けて、えんぷていの5人に話を聞いた。バンドとして健全に、すくすくと時計の針を動かしているえんぷていの今を追う。
「過ぎ去っていくものに対する哀愁を表現したかった」(奥中)
――2024年9月に「夏よ」がリリースされました。ジャジーなイントロから始めたのち、<夏よ>の一節で爆発させるサビを含め、ゆったりとしたテンションを加速度的に上げていく構成が印象的な1曲だと受け止めています。改めて本作を振り返って、皆さんはどのような楽曲になったと感じていらっしゃいますか。
**奥中康一郎(Vo,Gt):**最近のえんぷていはポップスのモードに向いているんですけど、「夏よ」はその中でも最大限のポップスを目指した1曲で。目指す美しさの形が少し変わってきているというか、これまで多かった様式美的な楽曲よりも、楽曲のエモーショナルな力がより感じられる作品になったんじゃないかなと。
――「夏よ」のポップネスは、歌謡的、あるいはレトロなエッセンスを含んでいると思いますし、それはえんぷていのパブリックイメージと合致している印象があるんですが、今回はどのようなビジョンを持って最大限のポップスを志向していったのでしょう。
**奥中:**原点回帰じゃないですけど、えんぷていの最初期の音源と通ずる側面がある気がしていて。僕らはaikoさんやいきものがかりをはじめ、1980年代から2000年代にかけてのJ-POPをそれぞれが通ってきているので、それらを昇華しながらも、過去の音楽をやり直すニュアンスではないオールタイムベストを目指しました。サウンド的な側面で言えば、エンジニアの方と話しながらドラムセットも変更しましたし。
**神谷幸宏(Dr):**僕が普段使っているドラムセットがジャズ向きなセットだったから、なかなか音量が出なかったんですよ。
**奥中:**そう、柔らかくて優しい音になっていた。でも、それだと目指していたオールタイムベスト、言い換えれば前作でも言及していたタイムレスな良さにはそぐわなくて。時代を選ばないポップスにするためには特定の時代が想起されない、古すぎずモダンすぎない塩梅を狙う必要があったんです。どこかの時代を切り取ってその空気を再現するわけではなく、「夏よ」の歌詞やメロディーに対して良い効果をもたらしてくれそうなサウンドを別の時代から借りてくる感覚だったかな。
――ドラムのサウンドに関してお話いただきましたけれど、リズム隊を組む赤塚さんは、どういったアプローチで臨んでいったんですか。
**赤塚舜(Ba):**音色そのものというよりも、弾き方や力の入れ方とかを含め、プレイングの方を意識しましたね。自分がもともと得意なのもあるんですけど、ウォーミーに弾いたつもりというか。
**奥中:**やっぱりポップスってメロディーの存在が大きいじゃないですか。そう考えた時に、ベースのカリカリした成分が前面に出ているとバンドサウンドに意識が持っていかれてしまう。だから、ベース単体ではなくバンドで混ぜ合わせた時に気持ちが良い音を鳴らしてくれているなと。
**赤塚:**完全に言ってくれた通りで、歌はかなり意識しました。
**石嶋一貴(Key):**ピアノに関しても、メロディーを引き立たせることを大事にしていて。AメロやBメロは歌に絡ませるフレーズが多いんですけど、サビではとにかく引き算をして伴奏に徹している。そのバランスを大切にしましたね。
――これまでのディスコグラフィーを考えると、えんぷていの夏の歌として「煙」や「琥珀」が挙げられると思うんです。そういった中で「夏よ」は、どのような夏のイメージを描いていったんですか。
**奥中:**大前提、僕は夏が苦手でして。その分、夏の嫌なところが見えるから、自分にとっての夏がきちんと体系化されているんです。その文字化された夏の心象が歳相応のものに毎回更新されているイメージなんですけど、「夏よ」は過ぎ去っていくものに対する哀愁を表現したかった。夏のことは嫌いだけど、夏の終わりになるとなんだかんだ楽しかったと思ってしまう、みたいな。その感覚が楽器のセッティングにも関係していて。というのも、日本の夏の名曲ってアコギが加えられがちなんですよ。
――というと?
**奥中:**アコギだと、アルペジオをすれば星空を連想させるキラキラしたサウンドになるし、ストロークをすれば開放的な気持ちにさせてくれる疾走感が生まれるじゃないですか。どの時間帯を描くにせよ、アコギを加えたことでもたらされた良い影響が往年の楽曲たちには表れていて。それらを踏まえて「夏よ」ではアコギを取り入れていったんです。
――楽器の選び方も含め、やはり「夏よ」はJ-POPの王道を念頭に置いた楽曲なのだと感じました。
**奥中:**確かにその側面はありつつ、J-POPになりすぎない意識はしましたね。この楽曲の肝はBPMの遅さなんですけど、通常これくらいのテンポだとダウナーになりすぎてしまうんですよ。でも、「夏よ」はスローモーションで花火が上がっていく様子とかをサウンドで表現したかったから、遅いながらもしっとり聴かせたくなかったし、大団円的な楽曲にしたかった。その厚みや重みを加えるために、歌い方やプレーも熱を込めた感じです。
ーー冒頭でお話した<夏よ>のロングトーンは、まさしくおっしゃっていただいた熱の込められた部分に該当するんだろうなと。
**奥中:**そう思います。(グッドサインをしながら)
**比志島國和(Gt):**なかなかグッドサインはレアですよ(笑)。

5人になったえんぷていの新しい武器を見せたかった(奥中)
――1月に発表された「ステラ」についても伺わせてください。1stアルバム『QUIET FRIENDS』のSF的な空気感を含んだ<持て余した 惑星の旅人><瞳の奥に眠る銀河に>といった歌詞や前作『TIME』の影響を感じる<守る気のない 約束の永遠>というラインを含め、これまでのえんぷていのメッセージを踏まえながら、サウンド的な冷たさをアップデートした1曲だと感じていますが、どういったキッカケから生まれた楽曲なんですか。
**奥中:**最初に念頭にあったのは、えんぷていにとって新しい風を吹かせることで。これまでファンキーな曲はやってこなかったけれど、みんなファンキーでキラキラした演奏が得意なのでそういう部分を出したかった。その上で、神谷と赤塚が加入してからしばらく経ったこともあり、今は「5人でえんぷていだ」という感覚が凄く強くて。だから、5人になったえんぷていの新しい武器を見せたかったんです。
――えんぷていにとっての新たな表情としてファンクを押し出した。
**奥中:**そうですね。でも、さっきの話と同じように70sや80sのファンクとか、アシッドジャズとか、ルーツをゴリゴリに出していくと時代にはハマらないかなと思って。ルーツの香りが濃くないながらにも、ファンクなラインを狙いましたね。で、作詞に関して言うと、「ステラ」は上京しないと書けなかった曲かなと。
――それは、上京に伴って感じたことを綴ったということ?
**奥中:**受け取り方はそれぞれなんで、僕の言っていることが正解ってわけじゃないですけど、この曲では東京、ひいては大都市で生きる人々が感じるインスタントな部分や孤独な一面を表現したかったんです。東京はどうしてもファストな傾向が強くて、それによって孤独な人が多い気がした。だから、そういう想いを抱えている人に聴いてほしいですし、「あなたにとっての幸せとは何だろう」って部分に一石を投じる楽曲にしたかったんですよね。
――今おっしゃっていただいたことや「夏よ」でポップスを強く志向した点は、バンドのモードに直結していると思うんですが、今のえんぷていにはどういった空気感が流れていますか。
**奥中:**バンドを続けていきたいっていうもともとの目標は全く変わっていないんですけど、短期目標というか、長く続けるためのゴールがこの5人になって生まれてきて。それに向けて、それぞれが良い方向に向かっていますし、そのスタートアップとして『愛はいつもひとりきり』がある感じなんです。まだまだ僕たちには隠し持っている武器があるから、それを沢山出して輝いていきたい。そのための第一弾がEPなんですよ。
――おっしゃっていただいたような短期目標、言い換えればそれぞれのタイミングで取り組みたいことが発生してきた背景は何だったのでしょう。
**奥中:**これまでの作品をはじめ、間違いなく順序を追って生まれてきている感覚ではあるんですけど、地元を離れて東京で活動し始めたことで自然発生的に出てきたものでもあって。だから、もしかしたら野望ができることは必然的だったのかもしれない。でも、確かに言えるのは、音楽家としてそれぞれに素敵な出会いがあったんです。僕も楽曲提供をさせてもらったり、好きなミュージシャンの方でお会いする機会が増えてきたりと、ロールモデルが沢山見えてきた。そうやっていくつもの見本があることによって「自分が本当にやりたいことは何だろう」「言いたいことは何だろう」と考えるようになったんだと思います。

愛への解釈を込めた1枚『愛はいつもひとりきり』「奥中の考える愛に僕らが寄り添った結果が今回のEP」(比志島)
――そんな言いたいことややりたいことに向けたEP『愛はいつもひとりきり』が2月14日(金)にリリースされました。以前インタビューをさせていただいた際、奥中さんは「愛するという行為は、何か見返りを求めることではなく、自己完結しているものだ」といった旨をお話されていましたが、EPのタイトルにはその考えが表出していて。今回、愛にまつわるテーマを掲げた理由は何だったんですか。
**奥中:**おっしゃる通り、以前も話した愛への理解が根底にはありつつ、その考えを述べた楽曲である「カフネ」ができたことが大きかったんですよね。僕は「見返りを求めないことが愛だ」と考えているけれど、そういう考えに至るまでには凄く傷ついた経験がある気がしていて。自分に向けた楽曲として作った「カフネ」が、痛みを抱えてきた同じ境遇の人に届いてほしいと思っている。そういうある種の呪いや祈りの籠った歌が完成したことで、このEPの根幹が見えてきたんです。
――傷ついた人と痛みを分かち合おうとした「カフネ」と孤独を抱えている人に「ステラ」で一石を投じようとした姿勢は、強く連動しているように思いました。
**奥中:**言ってもらったような感情を前面に出すと共感を求める存在になってしまうので、それぞれの方が好きに聴いてもらえたら嬉しいし、フィードバックが欲しいわけでもないんですけど、それでもそういう人たちに何かが届いたら良いなと。私のケーススタディーというか、僕なりの愛を表現したものを受け取ってもらうことで、みんなにとっての良いキッカケが生まれたら幸せですね。
――「カフネ」をはじめ、奥中さんの愛に対する解釈が詰まった楽曲を皆さんはどのように消化していきましたか?
**比志島:**自分でも言っていましたが、奥中は自分の考えを押し付けるわけじゃなくて、「みんなはどうかな?」というスタンスで書いてくれる人だと思うんです。それは僕らに対しても同じで、大まかなコンセプトはありつつも細かいところは委ねてくれる。だからこそ、奥中がどんなことを考えたのかをそれぞれが解釈していく必要があって。それぞれの愛に対する考え方を持ち寄ったというよりも、奥中の考える愛に僕らが寄り添った結果が今回のEPなんじゃないかなと。
**石嶋:**やっぱり特に「カフネ」の歌詞は素晴らしくて、それに合わせてアレンジを考えていきましたね。言葉は歌詞にしかないですし、僕らは感情をプレーで表現するしかない。今回は愛がテーマになっているので、無機質な演奏ではダメじゃないですか。なので、歌詞を第一に考えつつ、プレーに反映させていきました。
**奥中:**より感情的な演奏になっていることは、僕も実感していて。例えば「午後の目眩」は石嶋くんがストリングスをメインに作曲した1曲なんですが、インストでありながらも感情に訴えかける構成になっている。自然と方向性が共有されていた気がしますし、よく「バンドは生き物」と言われますけど、今回はそれを凄く感じたというか。もちろん、僕が指令を出している部分はありつつも、それ以上に反射的にムードが共有されていく感覚があった。その意味で、5人のバンドとして成熟してきていると思っています。
Qoodow、乙女絵画と共演。3月20日(木)開催『ONE WEEK WONDER'25』
――3月20日(木)に『ONE WEEK WONDER'25』が開催されます。Qoodowと乙女絵画との共演となりますが、2組に対する印象を教えてください。
**奥中:**Qoodowは前回観た時に、クールにやっている印象を受けて。えんぷていでも共感する部分があるというか、「Sweet Child」はギリギリQoodowにもありそうじゃない?
**比志島:**分かるね。靜かな部分とパッと弾けるパートを備えた構造は「Sweet Child」も重なっているから。
**奥中:**そういう部分に共感があるし、そのダイナミクスがどのように美しく進化しているのかも楽しみです。乙女絵画は海岸で髪の毛を切り散らかされているMV(「日が落ちた」)で知ったんですけど、「現代でこういうことをやってくれるバンドがいるんだ」と嬉しくなって。初めての対バンなので、頑張ります。
――改めて、3月20日(木)『ONE WEEK WONDER'25』に向けた意気込みをお願いします。
**奥中:**めちゃくちゃ頑張るので、「音楽を聴きにいくぞ」って気持ちで来てほしいですね。
石嶋:『SESSIONS』やEPのリリースを経て、新しいえんぷていを見てもらえると思うんですけど……。
**奥中:**確かにそういうシーズン感があるので、今までとは違ったムードのえんぷていを見てもらいたいですね。
**赤塚:**覚悟を持って演奏しようと思っていますし、やる気満々です。
**比志島:**カルチャーに根ざしている2組との対バンになるので、負けないように気合いを入れていきたいと思いますね。
**神谷:**良い3組が揃ったイベントだと思うので、トッパーとして1発目から最高な日を確信してもらえたらなと。
――石嶋さん、改めて、最後に意気込みを聞かせてください。
**石嶋:**絶対に良い日にします!
取材・文=横堀つばさ
3月20日(木)開催『ONE WEEK WONDER'25』

出演:えんぷてい / Qoodow / 乙女絵画
OPEN 18:30 / START 19:00
ADV / DOOR ¥3,000 / ¥3,500 + 1D
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